2012年9月22日土曜日

2006-04-03 時事―01 対中包囲網試論

2006-04-03 時事―01 対中包囲網試論 編集


時事CommentsAdd Stardimitrygorodok

―01 対中包囲網試論
日本が主導する対中国包囲網は現実的に可能かについての一試論
前提 イラク戦争開始前の安保理決議の必要の有無に関してわが国でも行われた論争および常任理事国昇格に失敗した鬱屈感双方が重なった現時点。わが国の指導部の意識、同伴知識人の言説、主流民意いずれにおいても「国連」の重みは戦後最低になっていることを前提とする。
従来からのテンプレ言説(国連って実は連合国だし何と敵国条項があるんだよ)に加えて国連高官の腐敗の公然化(セクハラからネポティズムまで)や常任理事国昇格に長年の被援助国が賛意を示さなかった無力感まで加わり、すっかり権威を喪失している。戦後最低なのは無論、リットン調査団(大歓迎後に報告書が出たときの反転した失望。「認識不足」が当時の流行語)から松岡外相の脱退宣告の70年前に準じるほど国際組織に対する不信感が醸成されている。
反中包囲網の構想は(日印同盟、太平洋(海洋諸国)連合、日露提携、アンザス加盟など)花盛りだ。
繁茂する反中戦略に対する制度的な試論を展開してみる。
ここでは、国際組織として、中国が指導的一翼を担う国際連合から日米同盟を軸に脱退。
(アメリカは実際に悪い意味での多士済々だった国連職員や大使の現地での不祥事の蓄積および反米・反イスラエルの決議の連発の過去などから国連に対する感情はもともと悪い)
その他の「有志連合」を軸に中国を封じ込める国際体制が可能かについて検討してみる。
国際組織上の先例
労働力というのは貿易や貨幣と異なり、国民国家の制度を超える趨勢は少なく(アンダークラスの3K労働とハイレベルの経営者、研究者、技術者を除く大半の労働者部分に関しては少なくとも今までは)、その結果GATTやIMF、WTOと較べると国内生活上に存在感や影響は比較にならないほど少なかった。これは主権国家が単位のILOでも労組が単位のICFTU(国際自由労連)でも同じ。ただ、中国が常任理事国メンバーの国連から脱退してというケースを想定するにあたって、冷戦初期に、世界労連から、西側各国の労組が一斉に脱退して国際自由労連を結成するにいたった経緯は参考になる。
⇒大原社研の記事
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/23/rn1951-427.html
では、現実にこのような中国を疎外した国際組織(実際にソ連を封じ込めたような冷戦初期の体制)が構築可能であるか。以下封じ込めが成立するに至った条件なるものを考え検討してみる。
1) 数千万といわれる在外華人
これは、中国を封じ込める動きの阻害要因として無視してはならないが、「歴史の歯車」が回った段階では決定的要因とはならない。よく言われることだが、第一次、第二次大戦にアメリカは参戦したが本国に膨大なドイツ系移民を抱えていた。実のところアイルランド系をイギリス系に加味しなければドイツ系が白人アメリカ人の中で最も多い。アイゼンハワーはドイツ系移民の子だった。もっとも、社会的影響力という意味では、イギリス系の方が当時は圧倒的に大きかったのは無論だが。在外華人自体も、反政府立場に親近感を示すという状況も清の末期には目立った。ただ、統治能力を維持している限り、少数の急進派を除き反政府をサポートするという事態は考えにくい。
2) 膨張傾向の有無
反中論者の危機感と異なり、中国は膨張傾向をとっているとはいえない。衛星国作りに精を出した70年代のブレジネフソ連(対外強硬派のジャクソニアンデモクラッツを生み、それがネオコンに転じたのだが)とは大きく異なる点である。現在の友好関係の主眼は台湾の国際空間での封じ込めのためのマイクロステーツ外交と専制もしくはポピュリズムで西側が敬遠してニッチになっている国家との実務的な提携である。(ミャンマー、イラン、スーダン、ベネズエラ)
冷戦期にブレジネフソ連に対抗して、ごく僅かに抱えていた親中衛星国(ベナン、タンザニア)からは15年以上前に手を引いている。これは、鄧小平の政治的遺言(米国とは国際空間で争わず、国力涵養に努める)に則っている。余談だが、ここ数年の塩野七生の日本に対する提言と一致しているのが面白い。
スペインの内乱に突っ込んでいったナポレオン・フランスやユーゴのクーデターに激昂して侵攻で貴重な時間を浪費したヒトラードイツ、南部仏印に進駐して米国に開戦決意をさせた戦前日本とも異なる点である。
もしも、反中論客が言うように、中国が膨張帝国なら、どことも軍事同盟がなく、戦力規模と軍事格差は半世紀前のチベットとどっこいどっこいのモンゴルに何故進駐して傀儡政権を樹立しないのか不思議だ。
(沖縄には本土から転居したクリスチャンの芸術家が矢鱈「最前線にいる身として」と繰り返す。貴女は東方騎士団のつもりですか?高い知性には敬意を払っていますが)
3) 外交的自己抑制能力の有無
抑制能力を喪った国家としては、現代ではアフマディネジャド大統領のイランなどが上げられるだろう。ハタミの時代に形成した欧州との関係の遺産はすっかり磨耗してしまった。
イラク戦争での対立の後遺症もあるのだろうが、欧州も対イランに腹をくくったようだ。
では、現在の中国がそれにあたるか。これは疑問である。日中関係、中台関係、中米関係から、強硬論者の言説のみを採取すればなるほど、中国が「共存不能な主敵」に仕上げることも可能である。だが、中国の周辺国家外交をみてみると、また違った視野が開けてくる。

北方領土問題―4でも0でも、2でもなく (中公新書)

この本ではこの10年で中国が対ロシア、対中央アジア、対インド、対ベトナムのそれぞれ二国間関係でもっともセンシティブな領土問題を次々に決着させていたのが判る。しかも決着の内容は経済勃興を背景に嵩にかかったやり方ではなく、中国側の大胆な譲歩も含んでいる。このような抑制された外交ができる国家に対して、恐怖におののいた合従同盟が構築できるかは大いに疑問だ。
4) 開放したマーケット
これは大きい。輸出も輸入もこの上なく大きい。「金に目がくらんで」という経済界にたいする非難も浴びせられるが、そういった攘夷的心情は別にして、他国の首脳の立場では、うまくこの市場にアクセスすれば、日本が戦後米国市場を利用して経済的離陸を遂げたのと同じことができるかもと、まだ先進国でない国ならいずれも考えるはずだ。この甘い大きなケーキに対して、諸国が揃って禁欲的になれるというのは上記2)から3)が予測不能の現実的脅威となった場合であろう。
5) マイクロステーツの数
日本はODA疲れと常任理事国昇格外交での敗北から、小国というと国連から疎外された台湾のみが目につくようだが、仮に国連から脱退した有志連合を形成するとしたら、実際の国力や経済規模はふけばとぶような規模でも、ウィーン条約以来の主権国家平等の建前に基づき、数をかき集めることが肝要になる。この場合、小国は新しい組織に飛び移るのに躊躇するであろう。国連加盟という意義が、独立以来の国家の歴史と結びついている場合はなおのことである。そして、G8の主要国やスペイン、オーストラリアは例え自国として関係なくても、日本が連携を予想する主要国家のうち少なくとも3カ国はそのような国連が独立のアイデンティとほとんど同義の数多の小国との歴史的なしがらみを抱えている。
フランスはアフリカを中心としたフランス連合。イギリスは英連邦。アメリカは米州機構に参加するカリブ諸国や太平洋のマイクロステーツ。これらの国が揃って、現実的な体制転覆の脅威もないのに(戦後のソ連に対してはあった)、新しい国際組織に引っ越すことが出来うるだろうか。
6) 小異を残して大同につく精神
一部の在野の反中封じ込め構想では、ロシアに対し北方領土問題を妥協して反中包囲網に加えるべきとの試論もみられる。ただ、ロシアは上記4)の中国のマーケットにやる気マンマンなことを留意せねばならない。他方、櫻井良子氏をはじめとするメインの言説は「100年経っても不法占領は不法占領」とイナバ物置みたいなことを言われる。数十年後、誰一人、北方領土で生まれた日本人がいないのに、領土返還(いかなる名目形式であろうとも)が行われた場合、かえって国際社会の国家間関係に不安定要素を持ち込むことになろうかと思うのだ。日露戦争が有色人種の抵抗運動、アフガン敗戦がイスラム覚醒運動に非常に隔たった遠方まで活性化させたように、条約上決着がみたとしてもさまざまな非妥協論者が日本に続けと強硬論をカマス可能性は危険だ。(パレスチナやコソボやその他たくさんある)
次に、韓国。これは上とは逆に櫻井氏や指導部の強硬派(地理的位置関係が近接しているからかもしれないが、麻生氏にしろ、安倍氏にしろ中韓を一緒くたに扱ってはならないという立場をとっている。リアリスティックな意見といえよう)は韓国の保守層との同盟関係再興を真剣に考えている。
しかし、ネットや論壇誌上の「威勢のいい」言説は韓国や現政権を完全に愚弄したものがはびこっている。むじな台湾ブログが言うように、隣国とすら協調できなくて、対中国包囲網が築けると考える方がどうかしている。
ここで、冷戦初期の西側と東側が好対照をなしている。戦後の西側は結束したものの、社会市場経済をとったドイツやベヴァリッジ報告に基づくイギリス労働党福祉国家施策などは米国の政治基準からいえば決して受け入れられない左であった。にもかかわらず、マーシャルプランを発動したのだ。ドイツの社民党には共産党の幹部の経歴を持つものすらいた。(西ベルリン市長のロイター、院内総務のヴェーナー)さらに、外交政策においても、中共政府を承認した英国、フランスに対して事実上黙認した。マッカーシズムの引き締めは国内や占領日本を越えることはなかった。
他方、スターリンは生意気なチトーのユーゴスラビアを破門し、冷戦初期における重要な戦力を自ら毀損した。韓国を侮蔑し、特亜と一視冷笑する態度はスターリン並みの狭量さとこらえ性の無さを印象付ける。
7) 日本の援助なかりせば
ODA廃止の次は、ADBも締め上げろと威勢のいい論者はいう。10年前だったら効果があったかもしれない。ただ、中ソ対決のさなかにフルシチョフが対中援助、派遣技術者を総引き上げしたときも、中国側は膝を屈することなく、逆に「主敵はソ連」と見定め、米国との和解を模索した。私は外交巧者の中国に主敵と認識されることは正直リスキーだと思う。それにこの問題を出すとき、少なくとも外貨準備世界1か2の国に貸し手が現れないということは考えにくいということを忘れてはならない。
8) 永遠の●●人
日本の反中共言説と欧米のそれとのもっとも大きな違いがひとつある。日本の言説は中国人の(将来の「自由の戦士」を期待する少数民族を除外し)一人っ子政策をほとんど問題にしない。漢民族の数に対しては本能的な怖れを抱いている。逆に、最も激烈な反中論者は中共当局の死刑の執行の個別事案に対しては敬意を払ったりもする。
さらに移民に対しても、いくら来日中国人の犯罪が目立とうとも、少なくとも有望ないし指導的な人材を受け入れる、もしくは自由と民主の風土で包摂し、逆に在米ポーランド人、在加ウクライナ人社会が出身国の民主化運動の基地となったことを参照しようとはしない。「永遠のユダヤ人」ばりの中華思想に呪われた漢民族は矯正不能ばりの言説がはびこっている。
反ボリシェビズムの連帯を構想した(実務能力は皆無だったが)ローゼンベルクよりもスラブ民族はみんな農奴というヒトラー的立場の考え方が本屋の書棚をみる限り多いようだ。
そして、これらの言説は国内国外を切断するのは詮無き話なので在日外国人(訂正⇒日本語英語ができる人間なら誰であろうと)を通して海外にも漏出しているとみるべきだ。●●アルとか●●ニダといった下品な口吻が国内のお遊戯で留まると思ったら大間違いだ。こういったタイプの民族的からかいは前世紀の中東欧でイディッシュ語なまりを愚弄した反ユダヤパンフや黒人訛りを愚弄した白人至上主義グループの言説と否も応もなく比較される。欧米では差別感情はあるとはいえ、言説空間では完全に周縁化されている。ところが、日本では活性化して、政府指導部は黙殺しているとはいえ、同伴知識人がそれをたしなめないのだ。他者をカテゴライズして貶める快楽は誰しもが持つ(それが階級であろうと、普通/変な人であろうと)心情であるとはいえ、冷笑アディクションの日本と戦略的に組む国が多数現れるとは思えない。もちろん、反日情宣をする人はこの種の傾向と食い違いを最大限に強調するであろう。

上記条件を考えると、対中国包囲網なるものは現実的に、極めて成功しにくい。では、対中包囲網に乗ってこない主要国が22世紀まで中国共産党と付き合うつもりと考えているかというとそうではないと思う。最高指導部から地方の幹部の子弟に至るまで欧米の学校を卒業している。欧米は自由と民主の浸透力を信じているのだ。もちろん、独裁と特権は癒着するゆえ、チャップリンの「独裁者」のような権力者が回心する場面は現実場裏では現れない。21世紀の半ばにはモンゴルタイプの民主化を遂げるのならば、(そういった可能性は大いにある)動乱期を望むよりも受容可能な選択だと考えるのではないか。最終的には中国人が決めることだが。
追記⇒少しモンゴルの民主化を探ってみたが、大言壮語の実務能力皆無の人間を一時指導部に戴き、国の混乱を招いた点でも、あまり理想的とはいえぬ。民主化過程で混乱なくスムーズに移行できたという意味ではAAランクがチリ、スペイン、スロベニア。Aランクが韓国、ギリシア、チェコ、ポーランドといったところじゃないかな。

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